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連載小説『一人静』7

 僕は一時、酒に溺れた。在る先生から「酒はいけません。思考能力を減退させます。」と言われ「判ってますよ。」と管を巻き、それが元で疎遠にまでなったことも有り、「ああ、もういけない」としばし想うのだけれど、またつい喉が酒を欲、する。頑是無いことの繰り返し。内臓は手ひどくただれて生涯何度目かの長期入院生活を余儀なくされる羽目となってしまった、のでした。 病院のベッドにひがな一日横たえていると、空虚な気配...

連載小説『一人静』6・異文

 僕は、恒にどこか先細りしてしまいそうな窮屈で真っ暗な洞窟を当ても無く彷徨うているかのような、そんな閉塞感に脅かされて生きてきた。生み出す言語は恒に陳腐に想えたし、これじゃあ駄目だ、と声を荒げ自身を鼓舞しても、また澱みない空気はどこからか忍んできて、それはまた屈託のない澱みだったから、僕は定めしそんなメランコリックな自分が厭になり、なんどこの世にバイ、しようとした、ことか。 真っ直ぐには歩んで来れ...

連載小説『一人静』5

 それから幾日も経たない日のこと、だった。彼女から連絡が有り、「明日にでも遇えない?」かと言う。僕はふたつ返事で了承、した。雑誌社の連載は終えたばかりだったし、何より長い連作にめどがつく思案は済んでいた。 何物も考慮の外、だったから、僕の心根は晴れていた。 病院へ赴くと父も存外、健啖そうだ。 僕は僕の指定した店に行く道すがら、随分今では遠い記憶の只中に在る、彼女との想い出をまさぐってはみた、だがど...

連載小説『一人静』4

 「いつかは遭うかもしれないと想っていました。」ちょっと彼女は眩しいものでも見るかのような眼差しで、この僕を従えている、ようだった。 僕は、閉口した。「う、うん・・・」普段の僕らしくも無く、どうしても伏し目がちになる。 漸く口に点いて出た言葉は「いつから、この土地に?」けれどもその問いは、後から考えればもっとも的を得た疑問のひとつ、だったと言えるだろう。彼女の二言、三言が直ぐに僕の脳を覚醒させた。...

連載小説『一人静』3

 それから何年の歳月が流れたことだろう。三十を過ぎ、下り坂、嗚呼、と溜息をつくまでもなく僕は気づけば、あの太宰が死んだ年になっていた。古里に居る。病いで倒れた父の介護の為に僕は東京での、言わば手づかずの仕事も放り投げて五年前に田舎に帰ってきた。古里は何も変わらない。幼き頃、駆け回った野や道もいまだにその地平には横たわっていた。変わったのは僕で、それはフゥーと吹きかければ直ぐに移ろいゆくであろう柔な...

連載小説『一人静』2

 僕は生まれつきの、胃腸障害に悩まされ続けていた。10代の時分から、けれどどこか大言壮語したり、唾吐き、激したことを言ったりするものだから、そういう感じにはとても想われがたかったけれど、痛みがひどくて何度かそれなりの日数、休むだとか、疼くまって一日中寝ているだとか、けっして身体の丈夫な方ではなかった。あの頃、僕は十二指腸潰瘍が穿孔し腹膜炎を併発、救急車で運ばれて緊急手術を施すほどの、入院騒ぎを演じて...

連載小説『一人静』1

 川端康成の名品に、『山の音』というのが、あるのです。先達て、僕はそれこそ山の音を聞いた。と言っても、心根に聞こえてきた、だとか、この心に響いてきたいにしえの音、だとかの所謂、思索的なことではなく、それこそ正真正銘、山の音を聞いたのです。 僕の大学時代、ふたつ上の先輩に東京は山の手育ちの壮麗な女性が居た。彼女はさる先輩が主宰していた文芸誌の投稿常連者で、堀辰雄の作をこよなく愛していると公言して憚ら...

Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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