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連載小説『爛熟』21

 魔を射る・・・僕は口惜しさでいっぺんにこの血が滾(たぎ)るような想いがした。知人の小説家から告げられて、在る文芸雑誌の批評家同士の対談録を読んだところ、僕の詩文に対する言及がなされており、「此の頃の彼は、なんだか身辺穏やか、じゃあないというか、澱(よど)みがフラフラしていて良いものを編んでないね」というくだりに及んで、のこと。僕は歯がゆさと怒りで、僕の中の「悪魔という名の魔を射抜かれた」想いがし...

連載小説『爛熟』20

 姉や叔父達は、今後の「推移を見守ろう」ということで、後事を僕に託して想い想いの場所へと帰っていった。皆、よるべあろうか、けれど確約たる生活が存し、明日、生きる為の手立ての為に帰っていかなければならない。姉は、その最後まで残っていたが、繰言のように「あなたが心配だわ。」などと僕にしきりに言うものだから、「大丈夫だよ。」と僕も散々繰り返して、その矛先をなんとか逃れようとした。先年、あの父が建ててくれ...

連載小説『爛熟』19

 現世と夢の狭間。隔絶している感はあった。あったが、愕然とその残像をしばし病室の、ベッドの上で弄(まさぐ)るように追いながら、僕はまたあの情景を夢に見たのだなと腑に落ちた。びっしょりと汗で背中が濡れており、五体がこうも重いのは何故だろう。魘(うな)されたのか。父の病院では無い、ようだ。僕はどこに居るのか。眼前にかけられたカーテン越しに、どんよりと翳った雲が行きつ戻りつ、している。雲が割れている?、...

連載小説『爛熟』18

 妖しく光る切先。鋭利な刃物がそう、と感じられたのは頭上から照射するランプの灯りが消えかかっていたせい、だけではないのだろう。その刃物を手にしていた者が、動揺を抑えきれずに微かに震えていたから。「さあ、どうした?、怖気づいたか?」下卑(げび)た哂(わら)いにその声はよく、映える。続けて女の金切り声。「止めて!!。ここは舞台じゃないのよ!!。」舞台じゃない?舞台じゃない?・・・・・。そのふたりの科白が覆...

連載小説『爛熟』17

  物書きと睡眠薬の関係は、阿片に群がる売人のそれに似てけっして隔絶されない関係に在る。詩人は、一命こそ取り留めたが、自室でひとり、父のその瞬間(とき)に怯え、考えるまいと想っても、なかば心は落ち着けず、また常用の睡眠薬を飲んだ。姉は努めて明るい声で、「優ちゃん、ご飯、食べないと身体に毒よ 。」と慰みの言葉を被せた。「死ぬものか」あの父が。ただ根拠の無い、自答(じとう)。さめざめしき問いかけ。いまこ...

連載小説『爛熟』16

  父は、看護師の急を受け、その病室へと駆けつけた時、明らかな死人の相を呈していた。仰向け、であった。看護師が主治医の傍らで、その胸に懸命、両の手を押し当て、自然呼吸を促している。 看護師はあらぬ叫び声を、あげる。「ほら、ほら、息子さんが来やはったよぉ」だが、父は蘇らない。固く、瞼は閉じられたままだ。僕は思わず、額に固く結んだ手を当てて祈らざるをえなかった。ああ、主よ。嗚呼嗚呼、神よ。 主治医は、...

連載小説『爛熟』15

 「砂糖はいくつ入れる?」 「えっ?・・・あっ・・・ふたつ入れてください」 目の前に運ばれたカップに漂う湯気を見つめながら、少女はさもこの世でいまだ見せたことのないかのような満面の微笑(えみ)を湛えつつ、一口、飲み干す。 「あの・・・これ」 少女が傍らに置いて居た鞄の中から取り出したものは、大判の詩篇が綴られている商用の雑誌であった。この辺りは少女も皆がそう、であるように作者の前でそのような所作を...

連載小説『爛熟』14

 「詩を編む、という行為・・・?」 少女は反復、した。 「うん。何がしか生み出そうとする、行為。ほら、詩という空間はよく宇宙に喩えられる、だろ?精神世界の宇宙。この心の中の精神という宇宙をこれでもか、これでもか、これでもかって掘り下げてみていくと、自分なりに見つかる言葉がある。そういった言葉を、ひとつずつひとつずつあやすように書き込んでゆく。そういう行為が、僕は好きではあるのだけれど・・・」 「そ...

連載小説『爛熟』13

  霙(みぞれ)が雹(ひょう)になり牡丹雪に変化(へんげ)するかのような神の悪戯が余りに過ぎた、冬の夜、詩人は懐手にした猫背のままでずっとうずくまっていたいほどの寒さの折り、ひとりの少女の 訪問を受けた。  「いや、何、いま帰って来たばっかりなものだから・・・」 父の病室から帰宅して間もなかった為、まだ室内には暖色の気配が漂ってはいなかった。詩人は急いで石油ファンヒ-ターのスイッチを押した。こういう...

Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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