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連載小説『爛熟』第一章1~12

  『爛熟』第一章 風友仁『a mature 』/爛熟<RANJYUKU>・part1 an author;Tomohito Kaze   1 その女は、僕に「愛をおくれよ」と言った。どこかで聞いたかのようなその言い回しに、ちょっと可笑(おか)しみが漂っている。にやけているのではない。不確かな真顔、でもない。これはどうしたものかというような、憔悴(しょうすい)しきった、やはり顔を繕(つくろ)っている、はずだろう、なのに僕は弱った。心底、困った。...

連載小説『爛熟』29

  誉れ高き主よ、我の、この胸にとまれ。教会の最頂部に設けられている、その大鐘が勢いよく振幅を起(た)てれば一帯に響き渡る、それらはひとの悲しき性を癒す一定の韻律、になる。そこにパイプオルガンの伴奏と共に合唱隊の調べが重なり、辺りは啓蒙の民の敬虔なる祈りで満たされる。はずだ、はずだ、はずだ。はず、さ。 詩人は、どこへ来たか。実父の死を受け、寒村にひとり取り残された詩人は、果たしてどういう想いでそこ...

連載小説『爛熟』28

 ネットカヘェへと勢いこんで、立てた自転車が転ぶさま。苦笑いしてもう一度自転車を立てるさま。少女には予感があった。入るなりすぐさまネットへと繋(つな)ぐ。『〇〇慈善事業評議会』・・・そこに求める詩人は存していた。「〇〇県〇〇群〇〇村」在住。ペーストし、そのまま検索してみる。「〇〇村役場」連絡先電話番号・・・。メモ書きし、一旦外へとまた駆ける。ポケットをまさぐるその手には携帯電話。番号をひとつひとつ...

連載小説『爛熟』27

  運命(さだめ)とは浪漫的、なものか?、赤い糸の伝説であったり、主の配罪に拠る業のようなもの、宿命とも言うべき出遭い、別れ・・・だがひとは歳を重ねるごとに、このようないわば見えざる世界への連想、空想を次第に想わなくなる。厳しい現実に晒(さら)されて、自身の技量だとか天賦(てんぷ)の才の無さ、だとかそういった生き様にすぐさま投影するかのような事態に陥って挫けてしまうから。「僕は駄目だなあ」「私って...

連載小説『爛熟』26

 少女は物心をついた頃から、詩情の世界に溶け込むことが好き、だった。あからさまに口について吐けない感情も、詩に重ねれば物憂さに付託して一時(いっとき)は消える。自身でも詩を編んだ。ゲーテには薔薇(ばら)の花弁を委ねられる想いがした。アポリネールには自然の風雅な森林を訪ねるかのような、安息観を。プーシキンには慈しみをヴェルレーヌには失望をマラルメには知を、そうしてランボーには砂塵の荒野をさ迷い歩く孤...

連載小説『爛熟』25

  少女は気が遠くなるかのような白雪に覆われた田園の彼方を見つめながら、ひとり佇み、詩人を想っていた。その顔半分はマフラーに埋(うず)まっており、手袋で覆っておかなければかじかむように手先が痛い。両の瞳がきらきらと夕闇の斜光を受け、煌いている。見紛(みまが)うばかりの陽の輝きに、桜桃色にまるで火照ったかのようなその浮雲のゆらとした流れに、一条の線を引いたかのような淡い空の残り辺に、立ち上(のぼ)る...

連載小説『爛熟』24

 母の時も、そうであった。父の時も、そうであった。その男は、その最後の時を向かえ、号泣した。両膝ついて泪、した。そういう、弱い男であった。情けない、人間であった。普通ならば、ひとはそういう姿を他者に見咎められたくなく、それこそ人知れず泣く、ものだ。「構うものか」そう、男は想ったかどうか。男には、その時、他者など、存しえなかったとしか言いようが無い。誠、か弱き男であった。そんな男は、ひとに案外、冷た...

連載小説『爛熟』23

 父は逝った。その眉間に最早、澱みなど存しない。 父は死した。その傀儡に最早、主など存しない。   看護師は手慣れている風で、「先ほど、六時二十一分、お父さんは亡くなられました。直ぐ、病院に来てもらえますか。」詩人の心根をすんなりと通過していくかのような、抑揚の無い、整然とした声音。つい一時間程前、彼は父の病室を辞したばかりだったのだが、呼吸器の韻律音のみに支配されていた病室では、その後の事態急変...

連載小説『爛熟』22

 己は業が深い。詩人は瞬(まばた)きもせず自身に、そう浴びせかけていた。かつて自らの意思で二度ほど死を選んだ。 詩人の姉は、世に詩人として知られた、その弟への風聞を畏(おそ)れてか、いまだ開封されずじまいではあるが、ある手記を綴っていた。弟が二度目の自死を選んだ直後の出来事で、その手記の存在を弟である詩人は、よもや知るよしもないであろうけれど、これらひとつの事象においても、いかに彼が幼い時分から、...

Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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