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連載小説『爛熟』18

 妖しく光る切先。鋭利な刃物がそう、と感じられたのは頭上から照射するランプの灯りが消えかかっていたせい、だけではないのだろう。その刃物を手にしていた者が、動揺を抑えきれずに微かに震えていたから。「さあ、どうした?、怖気づいたか?」下卑(げび)た哂(わら)いにその声はよく、映える。続けて女の金切り声。「止めて!!。ここは舞台じゃないのよ!!。」舞台じゃない?舞台じゃない?・・・・・。そのふたりの科白が覆い被さるかのようにリフレインになって、白狐(びゃっこ)する。全ては、いまや己の意思、ひとつ。(僕は・・・僕は・・・僕を刺すのだ。)
 水を打ったかのような静けさの最中、観衆は舞台上の、ひとりのうら若き青年のそれからを凝視、している。舞台?舞台?舞台???。
 いや、明らかにその青年はあの詩人の相、だ。まだ横顔に幼さの残る、だが見紛(まが)うことはない、あの詩人、美咲優治、だ。優治が二十三・四五の頃、だろうか。何故、彼が舞台のステージに?、・・・・・・舞台?
 いつの間にか暗転し、そこはどこか茂みのある森の中?、いや違う違う、違う。ある一室の黴(かび)臭い側壁を背にする居所。それにしても怪しむべきは、何故、優治はその片方の手にナイフ、刃物を握っているのだろう。それもその切先は優治自身に向けられているのだ。
 優治はどういう、心持ちなのであろうか。「あの時、固く握り締めたサバイバルナイフの柄がまるでゴム毬(まり)のそれに似て、あまりにも柔らか過ぎるものだから、ひどく可笑(おか)しくてねえ」そんなことを、たとえよしんば後でさえ言える技量の奴でないことくらい・・・。
 下卑た哂いと金切り声が騒乱の音楽と共に、突然、止んだかと想った瞬間、優治はそのナイフを自身の腹に向かって突き刺した。以外、ではなく、突き刺さった際の音よりも、突き刺そうと動かした優治の上着の袖がその、太股に触れ合った摩擦音の方をより大きく響かせた。
 一瞬、間を置いて激痛が走った。「うぐぐぐぐぅウググググゥ」
 あはは、文章として並べてみるとなんと軽い・・・
 痛みが言葉を凌駕、していた。ひとつがふたつに見える。ははは、可笑しいよ可笑しいよ。起とうとした。それでも起とうとした。だが足が縺(もつ)れてくず折れた。金切り声の女が、血相を変えて、優治のその両肩を懸命に抱き抱(かか)えようとした。「なんでなんでなんでこんなこと?」
 ・・・なんで、なんでって?。決まってるじゃないか、己の為さ。無論、また立ち上がろうとして地面に突っ伏した優治にそんな覚醒の想い、など無い。
 
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Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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