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連載小説『爛熟』23

 父は逝った。その眉間に最早、澱みなど存しない。
 父は死した。その傀儡に最早、主など存しない。
  
 看護師は手慣れている風で、「先ほど、六時二十一分、お父さんは亡くなられました。直ぐ、病院に来てもらえますか。」詩人の心根をすんなりと通過していくかのような、抑揚の無い、整然とした声音。つい一時間程前、彼は父の病室を辞したばかりだったのだが、呼吸器の韻律音のみに支配されていた病室では、その後の事態急変に、そうさほど時間を要しなかったということか。人々が夕御飯を喰らう最中、詩人は再び、自家用車を駆った。シャカシャカと左右に擦(す)れるワイパーの濁音(だくおん)と、それらへと吹き付けてくる白雪の粒が普段よりも大きく感じられた。行き交う車、など無い。
 駐車場に降り立つと、詩人は足早に二階の看護師詰所に寄った。幾人かの看護師が直ぐ彼を見咎めて、「待ち望んでいたかのように」父の病室へと先導、した。詩人の後ろ背で馴染みの看護師の「来られました。」という、父の最期を看取ったらしい医師への投げかけの言葉が聞こえてきた。
 詩人は、部屋へと入った。白布(はくふ)が、その面影を覆っていた。後(あと)から入って来た医師が「穏やかな最後でした。」と静かに呟いた。年長の看護師が、「ほんに、全然苦しまれるようなところも、無かったんよ。ほんに穏やかなもんやった。」と追従の言葉を重ねた。
 詩人は、父の枕辺に歩み寄って、その白布をとった。死化粧に染められているのか、まだ暖かげなその頬が綺麗な肌色を呈していた。一瞬間、詩人の相好が愕然と崩折れたように感じたが・・・。「・・・有難うございました。大変、お世話になりました。」医師らの方を向いて、詩人は深々とお辞儀をした。暗闇にあって、父の息使い、のみが聞き取れない。詩人が父に掛けて置いた、詩人の叔母が編んでくれた、詩人の父の名が付されていた、羽毛布団が部屋の隅にきちんと畳まれて置かれていた。そのことが、何よりもついぞ父がこの世情のひとで無くなったことを暗示しているかのようでいたたまれなかった。死装束(しにしょうぞく)に包まれた父の姿が、静謐(せいひつ)にひとつの魂の終わりを告げていた。詩人は懸命に耐えた。耐えた。それまでの人生。詩人のありとあらゆる我が儘(まま)を、「おまえの生きたいように生きれば良い」というまるで決め台詞でもあるかのように、二言目には発してくれた父。彼の胸中に数々の面影が瞬く間に去来する。
 
 ・・・・・・父さん。

 詩人は、誰憚(はばか)る事も無く、滂沱(ぼうだ)の泪を流した。四十にもなろうかという男が、か?、呆れて言葉も出てきやしない。言葉?、この状況下で言葉なんて要るのかい?。いつも自分に都合のいい言葉しか知らぬ誰かさんッ!!。
 溢れ出る、その滴(しずく)は拭う暇(いとま)も無い程に。
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Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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