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連載小説『爛熟』26

 少女は物心をついた頃から、詩情の世界に溶け込むことが好き、だった。あからさまに口について吐けない感情も、詩に重ねれば物憂さに付託して一時(いっとき)は消える。自身でも詩を編んだ。ゲーテには薔薇(ばら)の花弁を委ねられる想いがした。アポリネールには自然の風雅な森林を訪ねるかのような、安息観を。プーシキンには慈しみをヴェルレーヌには失望をマラルメには知を、そうしてランボーには砂塵の荒野をさ迷い歩く孤独な詩情の綾を教わった。石川啄木も宮沢賢治も室生犀星も萩原朔太郎も、きっときっと悲嘆の境地を詩に委ねているかのように、想えて、ひとり心、墜ちた。だが、最も少女が愛でた詩人とは少女と同じ言語で綾織る、この日本人の中原中也という夭折の詩人であった。気持ちが既に萎えているのである。だのに、懸命にその気持ちを奮い立たせようとするかのような、その詩の世界。寂しいような、辛いような、厳かさとその悲壮感、しんみりと哀感を摩(さす)るように、その世界は息づいている・・・。
 そんな在る日のことだった。その中也をいと惜しむかのような文章に出遭った。ふいに訪れた文(ふみ)の誘(いざな)い。渋谷(しぶたに)優治というその文筆家は、文芸雑誌に連綿と中也に対する幼き頃からの想いを綴っていた。なんと「そう、まで好き」なのであろう?、少女は「絶対的にどうして」そう、まで好きなの?と想わせるかのような、その激した中也への文章に、俄然、興味が膨らんだ。そうしてこの文筆家がまた詩人・美咲優治と同一人物である、らしいことも瞬く間に知り得て、興味が羨望に代わり少女に、様々な所作を要求、し始めた。学校の、市営の、図書館に駆けてみる。在(あ)った。美咲優治の著作が。紐解いた。読んでみた。何故だろう、少女はみるみる溢れてくる泪の雫に嗚咽、した。止まらない。何故、泣いてしまったのか?。この生を謳っているわけではない。死を真っ正直に向かい入れているわけでもない。そこに在(あ)るのは自身をけっして、いやこの人間なるものをけっして肯定せぬ文、文章、だが、全く否定しきれない、そのもがきみたいなものが執々(しつしつ)と綴られており少女の胸に、滲(し)みた。
 当初、その詩集に掲げられているその詩人の肖像写真を覗きこんで、そのあまりの幼顔に同世代かと早合点してしまったが、その写真は詩人の十七の時のものだと判り、更にその余りの中性的な顔立ちに少女は声を失った。少女の好む顔立ち、だったからだ。少女は、そんな自身では不遜だとさえ想える感慨に沈み込んで唯独り、詩人を空想した。この詩人は、このいまに生きている。それもその詩文から察するにいまだに、そう独りで生きている。どういう感覚で詩を編む、のだろう?その生い立ちは?その実際の呟きは、「私の想像の域、以上かしら?」。逢いたい、逢ってみたい。是非、逢わねば。希望は執着に変化(へんげ)して少女のそれからそれへの想像は留まることを知らなかった。図書館に据付のパソコンで検索してみた。無論、そこに現住所など明記、されてはいない。駄目もとでと出版社に問い合わせてみたが、相手はお茶を濁すばかりで教えてはくれなかった。その思春期特有の依怙地(いこじ)さ。周躁(しゅうそう)感。少女は生まれて初めて他者を愛したかのような感覚に陥り、こういうものなのかしら、などと戸惑いながらも自身に先を急げと告げていた。
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Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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