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連載小説『爛熟』28

 ネットカヘェへと勢いこんで、立てた自転車が転ぶさま。苦笑いしてもう一度自転車を立てるさま。少女には予感があった。入るなりすぐさまネットへと繋(つな)ぐ。『〇〇慈善事業評議会』・・・そこに求める詩人は存していた。「〇〇県〇〇群〇〇村」在住。ペーストし、そのまま検索してみる。「〇〇村役場」連絡先電話番号・・・。メモ書きし、一旦外へとまた駆ける。ポケットをまさぐるその手には携帯電話。番号をひとつひとつ丁寧に押していくさま。もしやパソコン据付のダイヤルフォンでは人目を憚った?もしやネットカヘェ、ロビーの電話BOXではまだ少女の執着が躊躇(ためら)われた?。村役場の、気の善(よ)さを会話に漂わす青年が応対してくれた。「あー、はいはい、そうですか?直接ね。良(い)いんとちゃいます?・・・先生の電話番号は、と。・・・」少女は、この時の胸の高鳴りを運命(さだめ)と後日、空(くう)を心に感じつつ称した。振り返れば、そこから少女は詩人に連絡をし、約束を取り付けたのだが、自身なりに「どう、したものか」と想わんばかりのその取り乱しようはいささか短兵急(たんぺいきゅう)な気もしたのだろうけれど、「可笑(おか)しなことをした」という感覚は全く無く、そこがこの少女の微笑ましきところでもあった、ろう。「すみません。あの・・・あの・・・一度そちらにお邪魔してもよろしいでしょうか?」「いや構いませんよ。あなたのご都合のよろしいときに来られれば良い、でしょう。」詩人は、出遅れて留守電に変わった際の少女のなんとも可愛らしき話しぶりに、その真面目そうな語り口に、そうしてメッセージが終わらぬ内に途中で切れてしまったご愛嬌振りに、心持ちが和らぐ想いが起こり、翻ってつい電話に出なかった粗相(そそう)を鑑(かんが)みつつ、再びかかってきたその少女とおぼしき着信音に今度はしっかと受話器を上げたのだった。
 少女は、やがて詩人を前にした。じっと見つめてみた。スラックスにセーター。どこにでも居そうな佇まい。だがその顔だけは揺れている。少女がときめきを肌身離さず、携えている、からだ。詩人は少女に優しかった。だがそれも誰にでも備わっている気配?、否、少女は知っていたのである。その時、既に。何を?、詩人の胸中を。それは土足でずかずかと入り込んでゆける物?いやいや、詩人の綾織る詩文を詩人の過ぎ行くときをさも自身のときであるかのように愛でる真摯(しんし)なる慕情(ぼじょう)を。少女は求めた。詩人の哀感を、哀切を。慾(よく)した。見定めようと計った。それは少女が幼き頃から有していた観念、こころ持ち。少女は既にこの時、嗅(か)ぎわけていたのである。詩人の憂憤を。いつぞやか途切れてしまいそうな、震撼(しんかん)と漂わすその気配を。
 少女は、幼い頃から詩情の世界に溶け込むことを、さも自身の生業(なりわい)であるかのように好んで生きてきた。詩人は機知を持ってそのことを本能で感じとった、はずだ。彼は、慈善事業団体との関わり合いなどといった世情の煩瑣な細々を、少女とのひとときでは一辺たりとも語らなかった。詩人は少女を崇(あが)めた、のだ。自身よりも、その半分にも満たない年頃の少女を。知る人ぞ知る、高名な詩人が少女を崇めた、のだ。「少女は僕とおんなじ棲家(すみか)に潜(ひそ)む住人、だ。」詩人は、そう易々(やすやす)と語っている。
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Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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