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連載小説『爛熟』31

 やがて、雨を携えて覆い被さってくるであろう嵐。遠来にやや、と望むは閃光。そうだね、あの時も上空は迫り来る嵐を孕(はら)んでいたろうねえ。僕は何処までも地平の及ぶ限り続いているかのような野っ原の、いわば一迷い人、みたいなものだったろう。「随分、心細かった。僕はいまにも泣き出したいような気分に陥って・・・。随分、心細かったよ。随分、随分ね・・・・・・」 

 あれは一体、いつのこと、だったろうねえ。小学校の低学年、いや中学年、かなあ。まだ半ズボンでも穿(は)いていた頃のことさ。僕にもそんな、まあ、例えばほっぺたを真っ赤に染めている、みたいなさ、そういう時期もあったんだよ。あの頃、僕には同じクラスにね、かなり好きな子がいてね、その彼女の誕生日、そうだな、きっと何日も前から、学校の帰り道に寄り道してね、その女の子の為に、野っ原を探し回っていたんだよ。うん、約束したんだよね。その女の子の誕生日に、「きっと持っていればそれだけで幸せになるという四葉のクローバー」をあげると約束したんだよね。まあ、迷信さ。けれどあの時、僕は懸命でね、どうにかして四葉のクローバー、その贈り物を手中にしたくてね、うん、野や山をほんとに這いずり回ったね。だけどどうしても四葉のクローバーは見つからないんだ。クローバーの一群はそこかしこにあるっていうのにさ、だのにどうしても四葉のクローバー、だけが見つからない。子供の頃だからね、その内、泣きたくなってくるんだよ。どうしてもどう足掻(あが)いても、ハハハッ、欲しいものが得られないものだから。日暮れてくるだろう?、確か、雷か何かごろごろ音を発(た)てててねえ、終いには見つけられない自分が情けなくなってきて、どう、そういう心待ち、気持ちだねえ、自分でもどうしたらいいのか、口惜しいっていうかさ、やりきれなかったよね。「僕は彼女に約束したじゃあないか」そういう気持ちに陥ってしまってねえ、仕方なかった。ほんと、もういろんな場所を何日も何日も探し回ったんだよ。だけど得られなかったよね。
 そうして、その子の誕生日。僕は「御免ね」と言って、仕様が無い、素直に謝ったんだよ。御免ね。見つけられなかったよって。けど彼女は辛辣(しんらつ)だったなあ。うん、その子にそう、告げると彼女は、物凄い剣幕で怒り出してね、ひどく詰(なじ)られた。「約束したじゃない。四葉のクローバーをあげるって」「約束したのにひどいじゃない。嘘吐き!!ッ。」僕は俯いたっきり、なんの反論もしなかった。まあ、言い訳をしたく無かったというのかな、実際、いまだに想い出すのは、その時、詰られた時の心持ち、だね。。いまだにそういうことはしっかり覚えている、ものさ。「・・・見つけられなかった僕が悪い。約束を破った僕が悪い。嘘吐きと言われても仕方が無い。約束をしたのも約束を破ったのも、この僕だ。だからこの僕こそが悪い。」しょげたよ。大袈裟じゃなく、この身の終わり、みたいな気になったよ。泣きべそをかいて家(うち)へとぼとぼと帰っていったらさあ、あの時、その道すがら、僕は母さんに逢ったんだよ。まあ、大抵、母親なんて者はそんな優しい部分が有るのかもしれないけれどね、母さんは事情を、うん、上手くそっと僕から聞きだしてね、慰めてくれたよ・・・。「あんたは精一杯のことをしたんよ。そういう気持ちは大事にせな、あかんよ。いつかきっと判ってくれる。あんたはほんにいい子、や。」ハハハハッ。まるで気持ち悪い。マザコンだな。頭を撫でられる。頬をぎゅっと両手で摘(つ)ままれたり摩(さす)られたりとかさ。
 
 それでも、僕はその後(あと)も探し回った記憶が在る。挙句、見つけられたと言う想い出が浮かばない。きっと長い間、それからその子に口を聞いてもらえなかったんだよねえ。「あの頃、僕は想ったものさ。見つけられなかった僕が一番いけなかったんだって。」


 
 
 
 
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Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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