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連載小説『爛熟』30

  自死。一度目は服毒。二度目は静脈(じょうみゃく)断裂。未遂に終わった、だがかつての、詩人自らのこれら行為は主への冒涜、以外の何ものでもない。主は、自らの死をけっして自らに課してはいない、はずだ。奉仕の精神は生あるところにこそ輝きを生(う)む。死してはけっして煌(きらめ)いてはくれぬもの?、
 窮するとひとは澱む。留まる。動かなくなる。落ち込む。凹(へこ)む。詩人はそこから周囲の想いも及ばぬ行為にでて、その己自身を追い込んだに過ぎない。自業自得とは、必ず、そこに伏線が在する。詩人は他者に哂(わら)われて当然、だ。常人が思考すれば留まる言動をさもありなんと起こしたのだから、嘲笑われて当然、だ。馬鹿で間抜けな詩人さん。・・・だ、などと、詩人は何度、あの頃の我が身を省みて断罪、したことか。その想いの先が、自死的行為?、苦悩の心中で彼には、その生に対してそうすることでしかあがなう術を見いだせなかったというのだろうか。

 北陸路は、寒(かん)の霙(みぞれ)を呼んでいた。木(こ)の芽時(めどき)にも関わらず遠方では、あれは春雷(しゅんらい)という奴であろう、なにごとか雲の切れ間から稲妻らしきものが地上へと刺している。小さな箱の中。二両編成の、電車のガタガタと揺れる座席でまどろんでいた詩人は彼方にその閃光を見た。またたくまにまたよそよそと迫り来る過去の戦慄?、いや彼はそこにぽつねんと座っているだけではないか。
 更に電車は北へ北へと向かう。与えられた時間は、詩人の想うままに在(あ)り、その命を自身で縮めぬ限り、潤沢(じゅんたく)な、それは自在なる一里塚(いちりづか)、とも言えなくもない。求める場所は求める場所に在(あ)り、詩人が厭(あ)くことを知らなければきっと扉を開いて易々と泰然と迎えてくれることだろう。だが、その続きは誰にも解せない。
これまでへの静々と想い起こされる情景。ひとはそれらを追憶の彼方という引き出しにしまいこみ、忘れた振りをしているに過ぎない。忘れた振りをしなければ生きていけない、から。まどろむ詩人の傍らをよちよち歩きの坊やが通り過ぎて行く。詩人は、ふとその子を目に掠(かす)めながらそんな彼方を遮断しようと再び躍起になる?、よせやい、潤沢な時間はさも潤沢に詩人のその懐にある、と言ってるじゃあないか。歩んでいるのさ。何処(どこ)へ?過去へ?未来へ?明日へ?。振り返るばかりが能、じゃあないよ。
 よちよち歩きの子の後に、十歳ぐらいの子、だろうか、お兄さん風の子が何事か発しながら駆けていく。いまだ続く春雷のせいで、そうしてその子のように駆け寄るが如く迫り来た春雷のせいで、箱の中にはその稲光しか差し込まぬのだけれど、それらがまた詩人のまどろみをこともあろうに易々(やすやす)と誘発して可笑しな心持ち、にはなる。外はきっと嵐、なのさ。だのに詩人はその外(ほか)に居る。まだ三十路を重ねぬであろう母がふたりの子を諭すかのように身振り手振りで言葉を尽くしている。稲光の中にその三様がシルエットと化す。詩人にはその母の問いかけは聞き取れない。「あの時も確か、どんよりとした雲の間に間から閃光がほとばしって随分心細い想いを抱いたっけ・・・」泣きついた母の懐でしくしくと嗚咽した自分。詩人はその陰影にあの頃を見た?、あの頃、あの時がふいにこの時、詩人の脳裏に蘇ってきて彼は深くけれど安らげにその瞼を閉じたのである。
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Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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