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連載小説『爛熟』32

 原色の町が在る。それは生まれた居所(いどころ)か。灰色の空が在る。それは這(は)いつくばって己の希(ねが)いを乞う場所か。十八に成る。原色の町を出た。遅生まれの詩人、ゆえに生まれたその日には、上京して既に東京に存した。卒業証書を受け取るや否や、詩人は餌をついばむ鳥が周囲の嬌声に驚いて飛び立つように、親の庇護から一時(いっとき)でも早く逃れたい、などといっぱしの想いに募らされてその町から出(い)でた。文京区は本郷、その三丁目、そこから程なく歩んだ先には、当時後楽園球場、夜ともなればその騒然とした気配、漂う町に彼は新たなる住処(すみか)を見い出した。いまから、あれは一体、幾年、回想の頃だろう。二十年、いや二十一年か。白山道りを駆けた。登った。息、切れた。時にはたすき掛け、時には自転車、当事ですらバイクが主流の配達にも関わらず所長の「自転車の方が経済的で良い」という、ただただ余りに全うな、ただただ余りに無碍(むげ)な理由で走らされた、駆け上がらされた、左へ右へ上へと下へと、階段の無い公団住宅は骨が折れるよ、まして「他社(ほか)よりサービスとして当販売店は、ドアポケットまでお運びしますから。他社は一回の集合ポストに入れて行くだけでしょう?」などといった配る身を顧みない勧誘などするものだから、彼らは、最上階まで駆けねばならない。新聞奨学生。砕け散る?何が?・・・。十七で詩を編んだ。発表した。激評、詩賞授与。一気に名が興(た)った。だが売れない。喰えない。なら、もっと自分を高めたい。よしんば上級学府へ。詩人はその年頃、渾身、勉学に勤しんだ。朗報が入った。あの町へ。その大学へ。だが、もうもう親の慰みは欲しくない。詩人にもそんな勘考に耽る、お年頃という何処吹く風の時代があった。
 だがだが、想うは易し。講義を受けつつ惰眠に陥って、また新聞を明くる日も明くる日も配る、走り込む日々は詩人が考えていた以上にその肉体を精神をくたくたにさせた。
 上京し、二ヶ月もせぬ内に、まずは一度目の入院、二度目、三度目、新聞店の所長も辛抱強く、詩人を扱った。他にひとが居ない?・・・それでも半年が過ぎる。過労入院の延べ日数が入院する度に短く、なる。詩人はあまちゃんだ。だのにそれこそ歯を食いしばってその己自身で望んだ生活にしがみついていった。雨にも負けず風にも負けず・・・賢治詠うところのまた雨の日も風の日も雨合羽を着て、濡れぬようビニール用紙に包めてある新聞の一片(いちへん)を小脇に抱え、階段を駆ける。「そうさ、これもよく夢にいまだに見る情景。」・・・小雨か?。螺旋の階段をぐるぐる駆け上る。眩暈が起こる。ドアポケットに新聞を入れ込む。外は真っ暗。お月様はその貌(かお)を今ではとんと忘れてしまったね。ああ、眩暈がする。足元がふらつく。「嗚呼嗚呼、厭(いや)だ、厭だ、全くこうも動悸が高鳴っては成人も知らぬ間に己はこの世の藻屑(もくず)となるのか」嗚呼、草稿用紙に向かって何も言葉が出ぬ時と同(おんな)じ感覚、だ。新聞を入れたと、ほぼ同時に中で引き抜く音がする。「そういう手合いほど、いつも遅い遅いと苦情を繰り陳(の)べる馬鹿野郎で、そういう奴に限って集金の時期は大抵、居留守を使いやがる。」詩人の同居人の、寄宿生の一群から憤懣が聞こえてきたりもそりゃあ、するさ。詩人は特別に寡黙(かもく)な方では無かった。気がそそられると至って饒舌なときもあった。だが、大抵はただ黙って走り込んでいた、あの当事。そんな詩人のこの頃にその生涯、いやきっとその死するその時まで忘れることは無いであろう、相思の友人が現れた。その新聞店の同居人、寄宿生であり小説家志望の文学青年、詩人と同年齢、北国の、真冬ともなれば深雪(みゆき)の出身、その名を高阪宗一(こうさかそういち)と言った。
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Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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