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連載小説『一人静』1

 川端康成の名品に、『山の音』というのが、あるのです。先達て、僕はそれこそ山の音を聞いた。と言っても、心根に聞こえてきた、だとか、この心に響いてきたいにしえの音、だとかの所謂、思索的なことではなく、それこそ正真正銘、山の音を聞いたのです。

 僕の大学時代、ふたつ上の先輩に東京は山の手育ちの壮麗な女性が居た。彼女はさる先輩が主宰していた文芸誌の投稿常連者で、堀辰雄の作をこよなく愛していると公言して憚らない、それこそかなりの容姿の女性だった。当時、地方から思想的には誰にも負けへんぞ、などと下あご持ち上げて、息巻きながら上京した僕の頑是無い初投稿作をどうしたものか、いたく気に入ってくれたらしく、何かというと、僕に目をかけてくれるようになった。講義内容をクリアーすべく関連書物が必要だ、と説けば、それならば神保町のなになにという書店に行けば、事足りるだろうとか、この俳優の作は、どこどこの映画館に行けばオールナイトで上映しているわよ、だとか、とにかくなにかと僕にはかなり優しく接してくれる女性、だった。普段はかなりの高飛車で(御免なさい)そういった振る舞いもしばし目撃していた僕にとっても、どういうわけか僕だけには朗らかで、時としてけなげなことを言ってくる、どうもそれは僕の書くものに対する評価以上のものが感じられて、けだし、けげんであった。けっしてどこからどう見ても、今風に言えばイケメンではない僕に対して、この態度はどうであろう、地方出の田舎者である僕は、ちょっと彼女とふたりっきりになるとドキマギさせられた。世の中にはあばたもえくぼという言葉もあってひょっとすればひょっとするかもしれないけれど、だからと言って、僕を一様にけげんにさせる振る舞いでもなかろう、と僕にはどこか恒に想わせる風であった。そんなある日、それこそそんな彼女の接する振る舞いに対する、答えは解けた。いやもう、いちどき、に。
 酒の席、彼女とふたりきり。彼女は、静かに柔らかに、こう言った。「おととしの夏、病気で死んでしまった兄さんに、あなたはどこか似てるのよ」
 なんだ、やはり僕の書いたものに対する純真な心根からの親しみではなかったのか?、僕は少し口惜しかった(彼女は、だからと言ってあなたの書いたものにはなんら関係の無いこと、と弁明はしてくれたけれど)。
 男と女の間柄。だけれども、やはり壮麗な女性とふたり連れ立って歩くことは、こちらの心持ちをどこか優雅で心地よい気分にさせる。僕と彼女は、その後もよく飲み歩いた。渋谷は道玄坂のちょっと洒落た酒屋。神楽坂の歴史を感じさせる、居酒屋さん。レトロな佇まいを醸し出す作りの、下北沢の珈琲館。大抵、彼女が財布の紐を緩める。僕はそそくさとついていくばかりだ。朝方まで飲んで、酔いつぶれた彼女を一人暮らしのマンションに担いで帰したことも、あった。
 そんな彼女に僕は、先達て十何年ぶりに出逢ったのです。


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Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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