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連載小説『一人静』3

 それから何年の歳月が流れたことだろう。三十を過ぎ、下り坂、嗚呼、と溜息をつくまでもなく僕は気づけば、あの太宰が死んだ年になっていた。古里に居る。病いで倒れた父の介護の為に僕は東京での、言わば手づかずの仕事も放り投げて五年前に田舎に帰ってきた。古里は何も変わらない。幼き頃、駆け回った野や道もいまだにその地平には横たわっていた。変わったのは僕で、それはフゥーと吹きかければ直ぐに移ろいゆくであろう柔な心根だろうけれど、自然や風景は微塵も揺るがない。「夢破れて山河在り」何故だ。何故、僕は古里に帰ってきてから矢先、そう想ってしまったのだろうか?。
 毎日の日々は、頑是無い。往復の、父の病院先。立ち寄る新刊屋。古書店。幾ばくかの食料補給。TVは見ない。パソコン執筆。酒はほとんど飲まなくなって昔を知る友達からは、断酒かとからかわれるほど、だ。
 温泉町。至るところに泉は湧き、僕はちょっと日常の空気が澱んだな、と想うと車をぶらりと走らせてこの胸いっぱいまで湯に浸かる。心地良い。
 そんな或る日のこと、だった。僕はあまりにも思いがけないひとに出遭った。馴染みの古書店。小さな店で、見上げるほどだが並べれば数えて六つしかない書棚のひとつから、僕はいつものように一冊の古本を取り出して眺めていた。その時だ。後ろ背に僕はひとの視線を感じて、何気なく振り返った。「○○さん?・・・よね?」怪訝そうに伺うようにひとりの背の高い女性が、僕を従えている。確かに見覚えの在るその声は、すぐさま僕の記憶を呼び覚ました。驚いた。あまりにも驚いた。「ああ・・・」僕は声にならぬ声をあげた、はずだ。「・・・えっ?・・・どうして、ここに?」僕にとってあまりにも意外な異性が、そこに居る。僕の古里、に。彼女の郷里は確かこんな地方ではなく、東京、関東近県だったはずだ。なのに、どうして僕の古里に彼女は居るのだろう。めまぐるしく僕の脳細胞は流転、した。ちょっと面食らって混乱をきたす一歩手前、だったかもしれない。それほど僕は、この意外な十何年振りの再会に驚いたのだ。そう、その彼女とは、かつて僕が心から愛した半同棲生活みたいな事もしたことのある、あのふたつ年上の、堀辰雄を好んで読んでいた女性であった。

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Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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