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連載小説『一人静』4

 「いつかは遭うかもしれないと想っていました。」ちょっと彼女は眩しいものでも見るかのような眼差しで、この僕を従えている、ようだった。
 僕は、閉口した。「う、うん・・・」普段の僕らしくも無く、どうしても伏し目がちになる。
 漸く口に点いて出た言葉は「いつから、この土地に?」けれどもその問いは、後から考えればもっとも的を得た疑問のひとつ、だったと言えるだろう。彼女の二言、三言が直ぐに僕の脳を覚醒させた。彼女は、その後、さる将来を嘱望される研究員の青年に見初められ、結婚。その夫の赴任地が福岡であり、二年ほど前から、その彼の生家であるこの地に移住してきているのだと言う。「どこか奇特なひと」で寡黙であり「民俗学みたいな地味な学術」の研究に没頭しており、「あのひとの生まれた場所は、あのひとのその探求心を満たす」にはかなり充足した土地であり、「ちっともあなたみたいにおもしろいこと、ひとつ言えないひとでね」。
 僕に出遭えたら、あれもこれも言おうと彼女は、まるで待ちかねた手紙の封を切る手ももどかしいかのように、次から次へとその後の事情を、一息に聞かせてくれた。
 (・・・・・・そうか、彼女の夫は僕とおんなじ土地の生まれ、だったのか)帰宅したのち、僕は「今度、またゆっくり場所を変えて」いろいろと話したいこともあるからと、僕の連絡先を書き込む為のメモ用紙を要求された古書店の店長の田舎者らしい屈託の無い笑顔を想い出しながら、ひとりごちした。彼女は、ほんに嬉しそうであった。そうして僕も、この歳で、ああも動揺することもなかったのにと、彼女との十数年振りのひと時に、苦笑の念を禁じえなかった。
 彼女は、美しかった。その微笑は、十数年振りという時をけっして感じさせぬほど、あの頃と同じく神々しき光を宿していた。
 僕は何物かにまた憑かれているかのような錯覚に陥って、ふと書棚から川端康成の書を取り出した。『伊豆の踊り子』で、ある。彼女が、あの旅娘を連想させたのだとしたら、僕はなんと短絡であろう。けれどそういった感慨とは別に、この書を取り出したという、その所作が僕のこの心根を優しく、させた。
 彼女は一体、今の僕に何を見出そうというのか?、いや、何を求めているというのか?、僕はそんな一時の思案に支配された久方振りの自身の胸中を計りかねて、いた。

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Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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