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連載小説『爛熟』37

 詩人は再び、何物かを求めて流離(さすら)い行く。高坂から連絡が入った。彼は、世田谷は北沢に暮らしている。彼らは二十三の夏を迎えようとしていた。詩人は、寄宿舎をその八月(やつき)ほど前に辞していた、新聞奨学生としては折れた、寒村で焦れていた頃、高坂の「たまには、こっちに来いよ。」という電話越しの懐かしい声に反応、した。電車に揺られた先で、高坂は変わらぬ微笑を湛えた。高坂は、大学卒業後、正規の職に就かずフリーターとして寝食を立てていた。鉄筋にコンクリートを流し込む為の型枠大工としてのバイト。ものを書く、という行為において、彼に貴賎の職など無かった。その為に汗をかく。「そこになんの欺瞞があろう?ことか。」、清清しきほどに、そこに一片の曇りすら無い観念。いまだ、その書くという行為は、人生の消費、でしか無かったが高坂は、詩人に逢うなりエネルギッシュな顔を手向けた。反面、俯きがちにものを語る生来の、詩人の佇まいが酷く嵩じてしまっており、詩人は久々の語らいにおいても昂然と語る高坂に眩しいものさえ感じてしまっていた。(君は、いまだに苦悩の只中に居るのだね。なのに、そう、すっくと胸を揚げていられるのは何故だい?何故なんだい?。)そう想えただろう、か?そう、自身を挫いただろうか?
 京王線下北沢駅界隈の雑踏。それらがもう、そこまでとばかりに聞こえてきそうなほどの徒歩、三分。苔むすかのような濃緑の枝は茂っており、その合間に古ぼけたぼろアパート。よくぞこの場を見つけてきたものだ、とも想えしほどの至便地。キッチン、脱衣場まであって狭いながらも風呂場、部屋などふたつ。そこには無数の数え切れぬほどの書物群。彼は、詩人に高笑いしたあとで、こう、呟く。「まるで、新聞店の寮部屋と一緒、みたいなものだね?」相槌を打つ詩人。ただ違うのは、そこが飯を食らう場所であり、排泄を伴う居所であったという判り易い、違いだけだ。「ここで生産される行為はおんなじさ。」高坂は、にこやかげにそう、重ねて言った。
 連れだって街を歩む。高坂が文学と共に愛して止まぬ演劇という名の火灯り、そこかしこに見てとれる演芸場の点在がその存在をいやが応にも際立たせる。街行くひとは若いひと、ばかりであった。みな、何かを求めている?何かを信じている?何かに絶望してしまった?何かに躓(つまず)く?何かを飛び越える?何かを培う?何かに突っ伏した?何かを、何かを手中にする?、寒村には無い風景。ここでは往来の、その聞こえてきた声でさえ違う種族のように想えてしまう。
 高坂と詩人は、街頭の最中にそれを、見た。出逢った。十字路の片隅でアコースティックギターを奏でつつ歌う、一人の大男を。無精髭、長髪、くしゃくしゃのサマージャケット、穴だらけのジーパン、男は歌う。

  How does it feel
  How does it feel
  To be without a home
  Li ke a complete unknown
  Like a rolling stone ?

  どんな気持ちがするのかい?
  どんな気持ちがするのかい?
  住む家もなくなって、
  誰にも全く知られないままに、
  石ころみたいに、
  転がっていくというのは?

      Bob Dylan『Like a Rolling Stone』
        Bob Dylan bobdylan.com拠り。(訳・筆者)
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Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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