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連載小説『爛熟』41

 あの時のことを僕は、ここに白状せねばならない。 
 突き動かしているもの・・・、その観念をもう、見えざる何者かの所作だなどと自身を戒めるのは止しにしたい。明らかにあの時、この僕には、彼が、奴が、邪魔で仕方なかったのだ。この視界から本気で消えてほしいとさえ、僕は念じ通した。愛するものへの横道を脇目も振らず、ただ歩んでいく。そんな悠長な心持ちであった、ろうなどととても思えやしない。だから、「邪魔者を、この地上から永遠に遠ざける為」だけに僕は、彼を刺したのだった。
 皆、若さゆえに窮屈であまりにも稀有で壮大な、それでもそのものにとってはあまりに無垢な理想業を唱えるあまり、信じ、しがみつき、その一点だけに固執し疲れ果てていた。
 それは、
 喩えれば高坂、彼の精神は文学世界に浮遊し、撥ね返され、何故、あんなにもものを書くという行為に耽溺していたのか?、もしも在る絶大なる、世情に影響を与える叡智を抱いた一個の批評家がよしんば彼の書いたものを絶賛していたならば、高坂、彼の精神は満たされたのだろうか、
 僕と高坂は下北沢はアパートの一室にあって共に寝食を得る境遇ではあったが、その横顔にはやはり二十代前半の若者にはそぐわない倦怠と痛恨が入り混じったかのような趣きが見え隠れしており、だからこそ無碍に言葉をかけ辛く、「どうしてそんなにまで・・・」と想うこともしばしば、だった。僕と言う、多分に何かの拍子で、とんと押されて世に出でた詩人が直ぐ傍らに居た、為だろうか・・・、否、否、否、そう、自身を戒めたとしてもその後のあの刹那は忌々しいだけだろう、自身を買いかぶる気、などそうそう、毛頭無い。高坂はただ、その己の境遇に焦れていた?あの頃の高坂は、やはり僕と言う擬態を通すことなく焦れていた?、だからあのような物語を書かずにはをれなかった?。一体、それは何故だろう?。いまの僕がそのことだけに執着したならば、あの頃の高坂、彼はあの事件に繋がる道化師に過ぎない、それはきっときっと違う妄執だ。
 喩えれば彼女、糸田玲子。僕が彼女に始めて出逢ったのは、その高坂の演劇好きに拠る運命(さだめ)であったろうかと想うことこそ、哀れなるものか。「面白い劇団がある。」彼に誘われて見た舞台の最終日、既にその劇団の首座と懇意であった高坂は、僕を打ち上げの席までいざなってきた。そこで初めて僕は彼女を見知ったのだ。既にこの時、彼女には黒い影が忍んでいた?、はははっ、嗤(わら)わせる。吹けばそれこそ跳ね飛んでしまいかねない小さな劇団にあって末席に陣取る彼女ではあったが、その美しさは分けても他を圧していた。彼女に見苦しいほどに言い募る男共の媚態。劇団のファンと評する、初めて集(つど)った僕にさえ、そうと見透かされてしまった、まるで上滑りなおべっかの数々。劇団員達は、それを諌(いさ)めない。いや、じっと何事か耐え続け、愛想笑いで応じている。それこそ疲れ果てる病(やまい)だ。
 その輪の中に、一際、洒落者を気取ったかのような大きな襟首を立てた、胸元に派手な刺繍をあしらったシャツを着た、そう、寺島、寺島亮治、奴が居た。

 僕は奴との一期一期を、よもや忘れはしまい。僕は、この奴を殺した。そのとき、僕はそれが「さも、当然のことなのだ」と自身で自身を必死で言い包(くる)めてもいた。どこまでも弱い、己。あの時、ごくりと喉に走った。ツバを飲み込んで、僕はひどい圧迫感を覚えてくず折れた。
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Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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