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連載小説『爛熟』43

 高坂はあの時分、よく自身の机に肘をつき、難しい顔を呈して、空想の只中に浮遊していた。浮遊といえば、そら優しいが、窓辺を横切る雲の切れ切れを寝そべってただ、追いつ追われつし、想いたった一文をノートに書き込むかのようなスタイルの僕とは違って、彼はさもがんじがらめに自身の身体を、机に拘束させ、机に縛り付け、机に引き篭もって文章を編まねば気が済まないような様子が伺える性質であった。
 そんな高坂が、何か一心不乱に書きはじめだした。僕らはルールみたいなものを決め、パートナーがそのような時は、けっして声をかけまいとお互いに了解、していた。そんな高坂が澱みだす。筆が止まっている。頭を抱えている。ちらと、僕を見る。俯く。あの時、あの近い未来に起こった出来事を僕がもしも予見出来ていたら?いや、或いは高坂自身がその筆を折るという行為を行っていたとしたら?

 奴が寺島が資金面一切を引き受ける、小劇団の首座から、こともあろうに、高坂に戯曲依頼が来た。高坂と首座は酒を時に酌み交わす、話しの通る人物で、至って落ち着いた風の初老近い男だったが、この首座の前で高坂は普段、劇団の在り様や、奴、寺島自身の剣呑ぶりを非難していたにも関わらず、彼、高坂に「何か、ひとつ、良いものを」と作品依頼を促した。高坂はふと思案し、我の胸に手を当てて、「書きたいテーマが今は想い付かないので」と一度はやんわり拒否したそうだけれど、そこをまげて、となだめられたらしく、否定のあと、その願いを「ならば」と聞き入れた。やはり、首座の言う、依頼の割にはためらいがちの「・・・寺島さんのお願いでもあるんだよ」と言うひとことが強く彼の脳裏に引っかかったらしい。それら、事の成り行きも、事態が収束したのちに知った事実だろうけれど、自身を普段、非難する者に自身が束ねている想いのままの劇団、その戯曲依頼をする辺り、寺島らしいとは想えなくも無い。
 高坂の背後には、確かにあの頃、既に僕が蠢(うごめ)いていた筈で、それはその当時、劇団内では僕と彼女との関係はもっぱらの噂になっていたことだし、まさに奴、寺島は高坂の力量を試すかのようにして間接的に、この僕に挑んできた・・・?いや、そのようなことを、寺島ははっきりと、あの時、僕に断言したほどだから、その了見は十二分に奴の腹中の鞘(さや)でもあったのだ。
 寺島は、恒に、その懐にえさを持っている。そのえさは彼女にとってのささやかな夢を培う為にぜひとも必要なえさ、だ。そのことを楯(たて)に奴は、彼女に執拗に交際を迫る。そこに、奴の概念のうち、全く違う詩人という代物が現れる。次第に彼女は、詩人の世界に身を焦がすようになる。寺島は窮、する。そうして追い込まれた寺島が起こした行動とは?なんとも頑是無い。ありきたりの物語?いまにして想い起こす度に陳腐な終焉?

 高坂は、一切のひととしての観念を、寺島のその精神に挑み返すかのような戯曲を用意、した。それが「若さ」という、人生その途上、熱病に冒された者だけが起こす発熱から来るものであったろうか?それが脆弱なる者としての可愛げの全く無い邪気有る魂の成せる業という、代償物であったと言えるのかどうか?。

 高坂は、ものした。己の机に突っ伏して、その舞台で叫び狂う、或る戯曲を書き連ねた。連綿とさも、この世紀にそぐわない、あの恋情の言葉の数々を!!あまりに古臭い前近代的な物語を!!
 高坂が、僕に黙し、書き連ねたもの。それはギリシャ神話にヒントを得た、叶わぬ恋を憂えた、ひとりの戦士が、果ては物書きのひとりの男が、己の身に、その恋人の前で「未来永劫の愛」を証明する為に、剣(つるぎ)を突き刺す物語・・・。

 高坂は、夜半、その物語を書き綴りながら、僕の寝姿をじっと見やりつつ、「この男なら本当に、それが出来るかもしれない」などと一瞬間であろうとも、戦慄をふと覚えつつも、さもさも感じたものだと、のち、語ってはいた。嗚呼、それは幻さ、ひとの作り上げたまさに幻想というものさ、と何故、見えざる主は呟いてはくれなかったのだろうか。(・・・あきらかに可笑しいよ。)ほんの一言で良かった。主は、僕に毒々しい、さめざめしい、場当たり的な気休めを。
 
 主は、僕に何を望んだ?

 今でもあの、高坂をけれど憎めない。高坂は、文(ふみ)に宿る高邁(こうまい)なる精神を高らかに詠いあげた。僕も高坂と同じ、住民だ。詩人はやがて、この手で、ならば演じてみせようと、その物語を遂行したに過ぎなかった筈だ。
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Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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