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連載小説『爛熟』45

 一詩人は、その異性とふたりっきりになる。そこは寺島も高坂も入り込めない、このふたりだけの真実(ま)空間に過ぎない、過ぎないが閉ざされた一個の詩人と女優だけの世界、ただこの世の艶(つや)在る闇、だ。だが、このときばかりは、その艶がいつもとは違い、ささくれだっていた?詩人はけっして他者を否定、しない。だのに、あのときの詩人は紛れも無く、苛立っており、自分をお座成りにしていた。彼女が、彼を糾弾しよう、そぶりを見せたから。いいや、糾弾とは大袈裟(げさ)な物言い?愚痴っただけさ。
 
 「なんで、あんなことを書かせたの?」
 「いや・・・、書かせる、なんて
  ・・・僕は、知らなかったんだよ。本当に。」
 「本当・・・?ごめん。こんな言い方ってないのかも」
 「いや、いいんだよ。僕の方こそ、君にとても迷惑をかけてしまった。高坂も・・・どうかしている」
 「・・・どうしたらいいんだろう?
  素直に演じてしまうしかないのかしら?」

 詩人の伏目がちな佇まいに、女優の想いが濡れ重なる。
 彼女は、泣いていた。一滴もその頬を伝わらぬが、ちらと一瞥した詩人にはそうとしか、感じられなかった。

 言葉が鈍く霞(かす)んだ。詩人には、その事態を収束させるには荷が重すぎた。声にすらならない。搾り出すように、それでも彼は、さも己に言い聞かせるように、こう呟いた。
 「・・・君は、それでいいのかな!?」
 弱い、若くして世情に出た詩人の危うさ、脆さがいっぺんに這い出した。詩人はこのとき、自身の両の膝を支えている上半身が明らかに他者のそれであるかのような身のけだるさを必死に耐え忍ぼうと努めていた。まだまだこの後に起こる出来事の、それはただ刃(やいば)にさえ過ぎぬのに。
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Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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