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連載小説『爛熟』7

  全く僕自身、これまでの半人生において流転の日々を繰り返してきた。煩瑣と歓喜と平凡と絶賛、執着と無関心、それらに付随するでっちあげと瓦解。世の中の人はほんにせわしなく邪で、機を見るに敏で、面白おかしく他者を眺める。実際、そこには実体などという物は無く、在るのは事象、だけだ。ひとのことはほんとに気にしており、わたし、なんぞを見据える気など毛頭、無い。自分さえ良ければ本望、か?、そうして僕もその只中のひとりであった。
 僕は若くして詩人として世情に、出た。幼い頃から、小説みたいなものを編んでみたが、どうも上手くならない。読み返せば読み返すほど、自身の作に反吐を吐きたくなってくるし、これではいけないと戯曲、脚本、評論、作文、漢文、古文、乱文、稚文、激励文の類までこれでもかこれでもかと読み進むに至り、僕は或る時、ひとつの結論を得た。詩、を書こう。詩で己を表現しよう。十七歳の頃、その精神に光明が差し込んだ。僕が綴った作を試みに、中央文壇に送ってみたところ、或る批評家の先生の目にとまり激評、を受け、そうして在る有名な詩人の冠名のついた賞の新人賞を心ならずも得た、のだ。ここに、その後、大いなる自身の感慨から来る発露に悩まされ続けることになる、詩人、美咲優冶が生まれた。優治とは僕の本名だけれども、美咲とは無論、僕が当時最もらしく考えたペンネームで柄では無いだろうが花々を愛でることが好きだったところから附した名、だ。美咲優冶の行く末は、山紫水明、花鳥風月、いやいやいや違うよ、これら風情とは全く逆だよ、いわば優雅必然、絢爛豪華な人生が待っているのかと思いきや、自身でも頑是無いほど波乱万丈、倦怠無碍な半人生となってしまった。
 詩は食えない。その後、上京し、いくつもの詩集なるものを編み、出版も度々成され、それなりの評価はもらえたのだけれど、非情なくらい、僕の詩集は売れなかった。世の勘考に己の詩は、耐えられないのか?、世の扇情を己の書く詩は拒絶しているのか?、そのどちらかでもないような気もするけれど、僕は食う為にせっせと幾数多のアルバイトに勤しみながら、世情を詠い続けた。時はちょうどバブル全盛の頃で、少々この身を甚振れば金は大枚、入ってくる。そんな日々の最中にあって僕は生涯忘れぬことがないであろう、人々に出遭った。だが故に、僕にとっては余りにも関わり合いにはなりたくない人達にも出くわしたし(かの先輩は、そんな彼らを生きる屍、生きているにも関わらず、考えていることは俗々しいことばかり、機知なる人間を装った、歩く動植物とも呼んでいたっけ)、倦厭なひとも大勢、居た。その合間にも僕は少しづつ、だが詩作に没入した。そのひとつが、また賞を得た。今度はどう、であったか?、尋常では無いほどの売れ行きを示した。自身でも驚くべき金を、得た。だが、僕は僕に失望、した。何故なら、その売れた作こそ、売らんがための作、だったから。確かに大金は得た。だが、それが一体、どう、たいしたこと?なのかね?
 
  僕は、ねぇ?、甘いでしょう?・・・・・・、

 二十七で得た大金を使い果たしてしまった。細々とその後は詩を編んでは世に出し、幾ばくかの稿料の為に批評文などを書いて、なんとかこの日暮らしを続けている。
 失ったものは大きかった。得たものも大きかった、と想えるものなら想いたい。
 僕の心は恒に、損得勘定という名の引き出しを開けたり閉めたりしながらせっせと自身を肥やそうと努めている。それが悲しいかな、昔からの僕、だったのでしょうねえ?。
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Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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