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連載小説『爛熟』8

  父が四年前に昏倒、した。脳内出血であった。急を知り、古里に駆けつけた僕が見たものは、哀れかな、眼球が逆を向き、半身に痺れが残り、呂律が回らぬ父の変わり果てた姿、だった。幸い、意識は判然としており一命は取り留めたが、それが果たしてなんの喜びだったのか?、九年前に既に母を亡くし、ふたりの姉のひとりは嫁ぎ、この地に居ない。もうひとりは行方知れず。三兄弟の末っ子で長兄の僕しか、父の傍に居てやれる者は居なかったし、だが僕はそんな哀れな父の横たえた姿を見つめていても、「帰らねばならぬのか」というジレンマに支配されている自身の胸中が定めし呪わしく想えた。
 「無理、せんでええよお。」「ごめん、な。こないなってしもた。」漸く聞き取れた父の呟き。もう、いけぬ。僕は、幼き頃、そんな父に手を引かれて暮れなずむ堤防の橋を歩んでいた頃の僕に、還った。「この俺が看取ってやろう。」「俺しか今の親父の縋る術は存していないのだ。」
 僕は、一旦、東京に戻るとお世話になっている方々に頭を下げ、強く慰留されても振り切り、再び、父の元へ参じた。
 「終わったな。」という空気がこの心に沈殿、した。僕は時代を生み出す勘考の只中にいつまでも浸っていたかった。振り返れば一度ならず二度、捨てようとした命だが、いざ生き抜き賑やかな往来にまたこの身を闊歩させてみれば、素直に「ああ、生きていてよかったな」という、そう、そう、そう、僕は短絡な思考に疑念を抱きつつも、東京という街を愛していた。
  かつて「ここには死人が棲んでいる」と編み、揶揄した屈折の街、だというのに。
  かつて「ここでは呪人が右往左往している」と嘲笑した罵倒の街、だというのに。
  泣いてくれる女など居なかった。いや、寄り添うてこようとする女も居た、ことは居たけれど、泣いてくれるほどの女、なんて居まい。高層ビルの斜景をこの背に受けながら僕は東京駅へと向かって行った。突き抜けるかのような青空が恨めしかった。きちんと身なりを整えた老婆が傍らを通り過ぎて行った。笑い合い談笑する、若い恋人達。ひっきりなしに行き交う乗用車。赤レンガが映じた。ああ、僕は毒されているのだなと自分で自分を慰めた。
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Appendix

Literature sight-seeing『風、早暁記。』

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introduction

風友仁(かぜともひと)

Author:風友仁(かぜともひと)
 
 沖に出たらば暗いでせう、
 櫂から滴垂る水の音は
 昵懇しいものに聞こえませう、
 ――あなたの言葉の杜切れ間を。

 月は聴き耳立てるでせう、
 すこしは降りても来るでせう、
 われら接唇する時に
 月は頭上にあるでせう。

 あなたはなほも、語るでせう、
 よしないことや拗言や、
 洩らさず私は聴くでせう、
 ――けれど漕ぐ手はやめないで。
   中原中也『湖上』拠り 
*『爛熟』この書を我が畏敬のひとり、中原中也の御霊に捧ぐ。


*an information desk *
皆々様の厚きご支持、心より傷み入ります。有難うございます。

*新たなる風の舞、ここに興つ。*
*謹告*当オンライン小説サイトでは、大変申し訳ございませぬが一切のコメント・トラックバック等は諸事情に拠り、お断りさせてもらっております。どうぞご了承くださいませ。*尚、この小説に関する全ての帰属権並びに著作権は筆者、風友仁にございます。個人で愉しむ以外のコピー、それらを商用の配布等に用いたりする行為は法律で禁じられておりますので是非、お止めくださいませ。現在公開中のものにつきましては、何の予告もなく、加筆、訂正、語彙、言い回しの変更、削除等行われる場合がございますが、それらについての更新情報等は行っておりませんのであらかじめご了承下さいませ。
*今後とも『爛熟』並びに風友仁の綾織る世界観にどうぞご支持、ご声援のほどを、宜しくお願い致します。
 
  2006・1・15 心を込めて。
         風友仁

*連載小説『爛熟』に就きまして*
 この物語は、空想の物語であり、一部事実を基に脚色なされておりますが、登場する人物及び団体の名称等、ある特定の人物及び団体等を示唆、揶揄、誹謗、中傷する類いのものではありません。飽くまでも架空の物語としてお読みくださいませ。またもしや名称、団体名等が同じでも飽くまでも架空の物語でありますのでその点、どうぞお知りおき下さいませ。皆様のご理解の程、何卒宜しくお願い致します。著者・風友仁


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